| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T02-3

シカが植物の質の変化を介してジャコウアゲハの休眠性を変える?

*高木 俊, 宮下 直(東大・農)

休眠は発育や繁殖、生存に不適な時期を克服する生理的反応であり、多くの昆虫に見られる。休眠誘導は主に季節的な環境変化によってもたらされ、日長や温度の変化を休眠誘導の刺激とするものが多く知られている。休眠誘導の刺激となる環境要因は非生物的なものだけでなく、餌生物の量や質の変化など生物的なものも用いられる。生物的な環境要因は季節的な変化だけでなく、他の生物との相互作用によっても変化する。休眠誘導の刺激とする環境要因が他の生物によって改変されれば、休眠のタイミングや生活環が変化し、受け手の生物の季節動態や季節適応に間接的な影響がもたらされる。休眠が他種との相互作用の中でどのように影響され、どのような影響をもたらすかは未解明の部分が多いが、休眠による時間遅れを伴う可塑的な形質変化は、個体群や群集の動態を考える上でも興味深い。

本研究では、餌植物の質の低下による蛹の休眠誘導反応が見られるジャコウアゲハに着目し、植物を介した休眠性への間接効果のメカニズムの解明を目的とした。第1に、餌植物の質を変えた飼育実験による休眠率の比較から、餌の質の季節変化に対する適応的な休眠性を明らかにした。第2に、餌植物の質の季節変化に影響をもたらす要因として、シカによる採食とその後の植物の補償生長反応を明らかにした。第3に、シカ密度の異なる地域における成虫個体数のパターンから、ジャコウアゲハの季節的な動態に対する間接効果を評価した。これらの結果をもとに、休眠への間接効果が個体群や群集の動態に与える影響と、他種による休眠誘導刺激の改変が受け手の生物の季節適応に与える影響について議論する。


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