| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T09-1
海洋の海底の大半には砂泥底が広がっているのとは対照的に、海岸線や浅海に限って、砂が堆積する場所がある。波と潮流による底質の摩耗と選別と堆積がこのような砂の集積地である砂浜や砂堆を作り上げた。砂浜は波の影響をより強く受ける波打ち際に形成され、砂堆は潮流の影響をより強く受ける浅海に形成されるが、両者は、絶え間ない攪乱、間隙生物の高い多様性とバイオマス、運動性のある埋在性マクロベントスによって特徴づけられる。砂浜とその生物多様性の厳しい現状については多くの報告があるが、砂堆とその生物多様性については、これまで十分な調査が行われてこなかった。本報告では、日本列島沿岸各地の砂堆の特色ある生物相とその現状を概観し、砂堆と砂浜の自然の連環について報告する。
瀬戸内海の砂堆はナメクジウオやイカナゴの生息場所として知られ、タイなどの魚類、アビ類、スナメリなどに至る特異な食物連鎖を下支えする基盤でもある。瀬戸内海では、海砂採取によって多くの砂堆が失われ、その特色ある生物相に大きな変化がでている。一方、近年、海砂採取の中心は瀬戸内海から長崎県や鹿児島県、沖縄県に移ってきた。南日本の砂堆は、アサヒガニの漁場として知られていたが、近年の海砂採取によってその漁獲量は激減している。海砂採取が行なわれている砂堆の陸側では、砂浜が急速に痩せつつある。また、海砂採取に伴う海の懸濁は、周辺の藻場の著しい荒廃を招き、またサンゴ礁へ甚大な影響を及ぼす影響も危惧されている。奄美大島周辺の砂堆での調査によると、そこには非常に特異で多様な生物相が見られることが明らかになってきた。これら結果は、南日本の砂堆がきわめて重要な生態系であることを示すと同時に、隣接する砂浜や藻場の自然とも密接な関わりがあることを示しており、砂堆の海砂採取に警鐘を鳴らすものである。