| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T15-3
島嶼環境に生息する脊椎動物で、小型種が巨大化し、大型種が矮小化するという“島のサイズ規則”が知られている。島嶼に生息するヘビ類では、小型の餌生物しか利用できない島嶼では矮小化が、海鳥の卵や雛のような大型の餌が利用できる島嶼では巨大化が起きている。伊豆諸島に生息するシマヘビは、カエル類を主食とする本土集団と比較して、主にトカゲ類を利用する島嶼(伊豆大島)では矮小化が、オオミズナギドリなどの海鳥の卵と雛を利用する島嶼(タダナエ島)では巨大化が生じ、その他の島では本土と同程度の体サイズであることが明らかにされている。我々は、このような体サイズの進化が、シマヘビ集団が島嶼に移入後、島々の餌環境に適応した結果なのか否かを明らかにするため、mtDNAのcytb遺伝子の塩基配列に基づく系統地理学的解析を行った。
その結果、1)伊豆諸島のシマヘビは少なくとも2つの異なる本土集団から独立に移入した集団から構成されていること,2)体サイズは、どの系統に属するかではなく、どの島に生息するかによって決まっていることが明らかになった。特に、本土と同サイズの神津島集団と巨大化しているタダナエ島集団は遺伝的には全く差がなく、体サイズの分化は両集団が分かれてから1万年弱の間に急速に進んだことが明らかとなった。この結果は、捕食者の体サイズの進化速度を推定する場合には、捕食者の島嶼集団がそれぞれいつ分化したのかを推定するだけでなく、体サイズに大きな影響を与える餌と捕食者の関係がいつ成立したのかを、捕食者、被食者双方の系統地理学的解析によって推定しなければならないことを示唆する。