| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T15-5

伊豆諸島における花形態の進化−クサギとシマクサギの訪花昆虫相から見えたこと−

*水澤玲子(東邦大・理)

一般的に、島嶼の生物相は本土と比べて貧弱である。伊豆諸島の植物では、本州の近縁種と比較して花形態の異なる固有種がいくつか知られており、その要因として、送粉者であるハナバチ類相が貧弱であることが指摘されている(Inoue & Amano 1990)。本研究では、黒色系アゲハ類によって送粉される(Suzuki et al. 1987)広域分布種のクサギと、クサギに近縁な伊豆諸島の固有種シマクサギ(Inoue et al. 1997)に着目した。シマクサギの雄しべはクサギに比べて著しく短い。本研究では、伊豆諸島産クサギ属の雄しべ長とアゲハ類相の関係を明らかにするために、各島における黒色系アゲハ類の生息密度を明らかにしたうえで、伊豆諸島におけるクサギとシマクサギの送粉者を推定した。

各島における黒色系アゲハ類の生息密度はルートセンサス法を用いて調査した。伊豆諸島におけるクサギとシマクサギの送粉者は、訪花昆虫を観察することで推定した。訪花昆虫の観察は三浦半島の逗子市、大島(クサギのみが生育)、八丈島(シマクサギのみが生育)、および新島(両種が同所的に生育)において実施した。

伊豆諸島におけるクサギの分布は、黒色系アゲハ類の生息密度が高い伊豆諸島北部に限られていた。クサギの主な訪花昆虫は逗子および伊豆諸島のどちらにおいても黒色系アゲハ類であった。シマクサギの主な訪花昆虫は、新島と八丈島のどちらにおいてもホウジャク類であったが、特に黒色系アゲハ類の生息密度が低い八丈島では、ホウジャク類がほぼ唯一の訪花昆虫であった。本研究の結果は、本州において黒色系アゲハ類に送粉されていたクサギが、伊豆諸島のアゲハ類相のもとでホウジャク類へと送粉者を転換したことで、短い雄しべが進化したことを示唆する。


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