| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T18-1
メタ個体群構造をもつ生物にとって、局所個体群(パッチ)間を個体が行き来する移動分散は個体群の存続性を左右するプロセスである。移動分散がもたらす効果の中でも個体群サイズの底上げは、個体群の絶滅率低下につながる重要な相乗効果である。この相乗効果は、局所環境から予測されるより個体数が多いパッチの存在することによる。このような構造のある個体群の個体数推定には、コネクティビティを考慮することが有効なアプローチである。コネクティビティは、周辺生息パッチの面積とパッチ間距離を通りやすさ(透過性)により重みづけした移動成功率からなり、周辺パッチからの移入個体数の指標に用いられてきた。この指標は、パッチ間の環境であるマトリクスに構造がないと仮定しており、分散成功率はパッチ間の距離に依存して決定される。しかしマトリクスが複数要素から成り、要素ごとに通りやすさが異なる生物も多い。こうした場合、マトリクス構造が透過性に影響を及ぼすことで、単純な距離依存では移入個体数を指標できないことが予想される。
本講演では、パターンデータを用いて個体数への底上げ効果を示し、さらに移入個体数に対する景観依存性を考慮することで、メタ個体群構造がもたらす個体数の予測誤差解消を試みる。
本研究は、放棄水田や湿地に生息するカヤネズミを対象とした。はじめに、パッチの空間配置を変化させる野外実験と、シンプルなコネクティビティを用いた統計モデルから、本種の局所個体群サイズに周辺パッチが関与していることを明らかにする。次に、分布パターンからマトリクス要素ごとの透過性を推定し、透過性が景観構造の影響を受けることを示す。これらの結果から、パッチの空間構造やマトリクスの異質性を個体群モデルに考慮すると、将来予測など外挿の精度が向上するだけでなく、バイアスが生じる危険性を避けることができる。