| 要旨トップ | ESJ56 企画集会 一覧 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T18 -- 3月19日17:30-19:30 G会場

1+1≠2 メタ個体群アプローチが解き明かす生態現象

企画者: 熊谷直喜(千葉大・理学), 黒江美紗子(東大・農・生物多様性), 小泉逸郎(NOAA)

本集会では、メタ個体群の概念や有用性を整理し、実際の野外個体群研究への適用について議論する。

メタ個体群構造の特徴は、局所個体群同士が低頻度の移動分散によってゆるいつながりを持つことである。このつながりによって、単なる局所個体群の足し合わせからは予測できない相乗・相殺的な現象が生じる。この現象を解き明かすことこそがメタ個体群アプローチを研究に取り入れることの醍醐味である。また、メタ個体群研究の有用性は、近年は保全生態学においても一躍注目を浴びており、分断化を受けた生息地における絶滅リスク評価などに威力を発揮している。

しかしメタ個体群生態学は、概念自体は広く知られているものの、国内での実証研究は非常に少ない。多数の野外個体群を調査する困難さに加え、大半の野外個体群が絶滅-再新生をともなう狭義のメタ個体群に当てはまらないことが大きな理由である。

本企画集会では、メタ個体群構造によりもたらされる現象として、個体数の底上げ効果(黒江、陸生哺乳類)、絶滅率の低下(熊谷、海産無脊椎動物)、個体群の安定化(山村、実験昆虫)、局所適応の抑制(小泉、河川魚類)を紹介する。また、各演者が実際にメタ個体群研究に用いている Incidence Function Model(Hanski 1994)などの有効な研究手法についても解説する。さらに、絶滅-再新生をともなう狭義のメタ個体群に限らず、ある程度の空間構造をもつ個体群の研究にはメタ個体群アプローチが有効であることを議論していく。

*コメンテーター:

齊藤隆(北大・フィールド科学)、宮下直(東大・農・生物多様性)

[T18-1] メタ個体群構造がもたらす個体数の底上げ効果とその景観依存性 黒江美紗子(東大・農・生物多様性)

[T18-2] 移動過程と生活史の特性がメタ個体群存続性に影響する 熊谷直喜(千葉大・理学)

[T18-3] 局所個体群の不安定性こそがメタ個体群の安定性を生成する 山村光司(農環研)

[T18-4] メタ個体群内における生活史形質の分化:自然選択 vs. ドリフト vs. ジーンフロー 小泉逸郎(NOAA)


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