| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T20-1
人間活動の影響を受けて形成されてきた人里周辺の里山林は、第二次大戦後、エネルギー革命の影響下で次第に人間による管理放棄が進み、他方、拡大造林によって針葉樹人工林への転換が進められた。人為の影響の強さという視点からは、一方でアンダーユースが進行するとともに、モノカルチャーの植栽管理への転換という一種のオーバーユースも進行したわけである。このような里山林の管理状況の変化は、それ以前の伝統的な里山景観で維持されていた生物多様性にどのような影響をもたらしたであろうか。
この問いに答えるために、私たちは、これまで北関東の落葉広葉樹林帯で、依然として伝統的な管理に近い施業が行われている広葉樹二次林、スギ人工林のそれぞれにおいて、様々な機能を持つ生物分類群(植物、木材腐朽菌及び節足動物、鳥)が伐採からの時間経過に対してどのように応答しているかを調査してきた。その結果から、広葉樹林の様々な生物分類群の多様性は適度な人為によって維持されること、針葉樹人工林化は天然林とは異なる生物組成をもたらすこと、しかし若齢人工林は天然林の若齢林と同等の生物多様性を維持することなどが明らかになった。つまり、景観スケールでの里山林の生態系機能の多様性を保つには、景観内でのモザイク性、異質性の維持が重要であるといえる。里山における今後の人間活動の低下は、このような景観のモザイク性、異質性を低下させ、里山林の生態系機能の低下をもたらす可能性があるといえる。