| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T22-4

イヌビワ−アカメガシワオーダーの植生地理

鈴木 伸一(IGES国際生態学センター)

日本の常緑広葉樹林帯に成立する夏緑広葉樹二次林は,コナラ林に代表される人為的管理のもとに維持された薪炭林が広い面積を占めている。これに対し,道路法面,谷筋急斜面,崩壊地,耕作放棄地,森林伐採跡地など,日当たりがよく肥沃な立地では,小植分ではあるが、アカメガシワ,カラスザンショウ,ハゼノキ,クサギ,ネムノキなどからなる先駆性二次林が成立し,本州以南の低地帯に広くみられる。このような先駆性二次林;アカメガシワ林の構成種は,大型の広葉あるいは羽状複葉を持ち,陽地生で生長が早く,特徴的な盃状樹形を示す植分を形成する。これらは。コナラ林などの夏緑広葉樹林や常緑広葉樹林の萌芽林とは異なり,マント群落的な林縁群落的性格を強く持つ。日本のアカメガシワ林を構成するMallotus, Rhus, Fagara, Tremna, Ficus, Celtis, Macarangaなどの主な属は,熱帯アジアにも広く分布し,種のレベルで共通するものもみられる。南西諸島以南ではヤンバルアカメガシワ,オオバギなどのように常緑性となる種も多くなるが,同じ常緑広葉樹でも照葉樹林ともよばれるヤブツバキクラスの構成種のように,光沢をもつほどには葉の表面にクチクラ層が発達しない。日本国内では亜熱帯に属する南西諸島において構成種の多様性が最も高く,北上するにつれて貧化してゆく。関東・東北地方では,アカメガシワ,カラスザンショウ,クサギなどアカメガシワ林の林冠構成種は数種にすぎない。演者らは、このアカメガシワ林を熱帯起源の広葉樹林の一型として捉え、イヌビワ−アカメガシワオーダーにまとめている(鈴木・宮脇, 1984)。同オーダーは、北限域の日本では熱帯・亜熱帯域と比較して、種組成的、形態的に断片的傾向は否めないが、熱帯起源の森林類型として日本列島の森林を特徴付ける存在として興味深い。本集会ではこれまでの知見を紹介したい。


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