| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T24-3
以前「タラコは海中の岩に付着していて、それを漁師さんがとって塩漬けにする」と思っていた学生(理系)がいて非常に驚いた。ところが最近では「ニワトリが卵を産むことは知っているが鶏肉になるのは別の生き物で、それは羽毛がない鳥肌の動物である」と思っていた学生や、「サケは切り身の形のものが海や川でとれる」と思っていた学生(共に文系)までいる。「食」という身近なものであっても、自然と人間の暮らしがあまりにも乖離している現実。これは教育が時代の変化に対応できなかったことを示している。
では時代が変わったとはどういうことなのであろうか。それは人々の価値観が変わったということである。価値観は環境や経済、生活などから影響を受け、また逆にそれらに影響を与える。自然の仕組みや物理などの知識は、従来日常生活の中で培われて来たが、あまりにも便利になった今、それは期待できない。沸いたと思った風呂に飛び込んだら底の方がまだ水だったという経験は現代の子供にはほとんどないし、教員にも自然の中で遊んだ経験に乏しい者が多い。
ここに生態学教育の出番がある。しかし自然科学だけではダメで、幅広い分野との協働が必要となる。時代はスペシャリストではなくユニバーサリストを必要としているのである。そこで我々は博物館、大学、小中高のネットワークを作り、これまで単なるイベントに陥りがちだった環境学習などの活動をシステム化し、その中心に研究活動を置こうと考えた。目標は自然のように多様性を持った自律更新型システムの構築で、プログラム自体が小さな博物館ともなる。中心に据える研究は、子供たちと共に行う生物相の調査から、大学院生らによるDNAや安定同位体の分析まで多岐にわたる。さらに学習者は学芸員らと共に情報発信にも携わる。
時代に対応するには、現実の問題に惑わされず原点に戻ってゼロから考えることが近道ではないだろうか。