| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T25-3
食物網の構造が多種共存の鍵を握るとの仮説のもと、「自然食物網の構造にパターンを見いだす実証研究」や「食物網構造-個体群動態関係の理論研究」がすすめられてきた。しかし、これら2つの研究アプローチの間にはギャップがある。理論研究が3〜4種の生物種からなる単純な食物網(栄養モジュール)を対象としてきたのに対して、実証研究では多数の種からなる食物網の複雑な構造に注目が集まっているためだ。自然食物網では、栄養モジュールは単独では存在せず、よりおおきなネットワークのなかに埋め込まれている。したがって、栄養モジュール理論を現実食物網に適用するためには、栄養モジュールと外部群集との間の、あるいは栄養モジュール間の相互作用を考慮する必要がある。本研究では、208種の魚からなるカリブ海食物網を解析することで、栄養モジュールの「構造」と「組み合わせ」が生物多様性維持機構において果たす役割を調べた。ギルド内補食(IGP)モジュールは、捕食者とその被食者が共通の資源種を利用する、3種からなる栄養モジュールである。理論モデルの解析から、IGPモジュールの存続機構には、(i)モジュールの内部構造によるものと(ii)モジュールの外部構造によるものがあるのがわかる。この理論に基づいてカリブ海食物網を解析した結果、(1)不安定なIGPモジュールは有意に少ないことがわかった。さらに、IGPモジュールの安定化機構を調べたところ、(2)内的構造と外的構造が相補的に働いていること、また、(3)外的構造に依存して安定化しているモジュールは、内的に安定なモジュールに取り囲まれることで、その安定性が促進されていることが示唆された。現実の食物網ではそれぞれの栄養モジュールが安定な構造をもつばかりでなく、栄養モジュールを取り巻く外部群集も栄養モジュールを安定化させるようにノンランダムに配置されている可能性がある。