| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
企画集会 T27-1
湖沼・水田水系においては,フナ類等の多くの淡水魚が異なる環境を異なる生活史段階で利用する.特に繁殖期には,成魚が普段あまり生息しない水田水路なども利用される.また,水田内は稚魚の重要な成育場所となりうる.こうした魚類個体群の存続には,生息地間を結ぶ移動経路の存在が重要である.しかし,河川工作物の建設により,多くの水系において湖沼と水田の間のネットワークが分断化されているのが現状である.ここでは,湖沼-水田のネットワークが比較的維持されている諏訪湖に着目し,フナ個体群を一つのモデルケースとしてpopulation viability analysisを行った.まず,湖沼・河川・水田水路・水田という環境を結ぶ生態ネットワークの調査を行い,フナの繁殖に必要な抽水植物の分布図を作製した.その結果,湖岸では14%(3.2km)のみが産卵に適した抽水植物であり,その他はコンクリート護岸や人工渚などからなる.諏訪湖南部の10の流入河川では,農業用の堰堤で湖からの移動が阻害されている場所もあるが,45%(33km)の場所に抽水植物が分布し,フナ類の産卵場となっている.水路は河川と水田を結びながら張り巡らされており,幅の広いもの(62km)と狭いもの(79km)で分類して地図化した.水田の総面積は4.4 x 10 6 m2 であり,全域で稚魚の生息状況を調査した.この生態ネットワークに関して,繁殖率に大きく寄与する地域を把握し,仮想的な分断化シナリオに対して繁殖率がどの程度低下するかを計算した.また,ノードの連結数などの統計量からネットワークを特徴づけて,分断化へのロバストネスとの関係を調べた.さらに,過去40年間のフナ漁獲の時系列データから個体群の増殖率・環境収容力を推定し,生態ネットワークと結びつける事で,生息地が分断化される影響を絶滅リスクの増加で評価した.