| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T30-4

茶草場として維持されている半自然草地の多様性

稲垣栄洋(静岡県農林技術研究所),加茂綱嗣(農環研)

静岡県の茶生産地では、茶園へのススキの刈敷が伝統的に行われ、茶栽培が近代化を遂げた現在でも、茶の品質を向上させる技術として重要視されている。そのため、茶生産地にはススキ草地(茶草場)が大面積で展開しており、草原性の植物種群を多く内包する植物群落が成立している。里山草地が各地で減少している中で、これらの草地は現在の農業形態において、維持されている貴重な半自然草地であると位置づけられる。しかしながら、茶草場が絶滅を危惧される多くの草原性依存生物の生息場所となっている事実についてはほとんど知られていない。

本研究では、静岡県掛川市東山地区周辺を対象に調査を実施した。現地踏査から茶草場の形態は、1)急斜面地や茶園から離れた場所に大面積で成立する入会地型草地、2)茶園に隣接する隣接型草地、3)茶園の縁に幅2〜3メートルで維持される線状型草地、4)水田耕作跡地に成立する草地の4つが認められた。上記4形態の茶草場と比較のため造成地等に成立するススキ草地を対象に1m×1mのコドラートを設定し、114地点の植生調査を行った。得られた資料をTWINSPANにより分類した結果、5つの植物群落に区分された。Gr.1は、アキカラマツ、ヤマハギで区分され、ネザサが優占する群落タイプ、Gr.2はワレモコウ、アキカラマツ、ツリガネニンジンを指標種とする群落タイプ、Gr.3はセイタカアワダチソウ、メヒシバで特徴づけされる造成跡地に成立する群落タイプ、Gr.4はセイタカアワダチソウ、クズ、ネザサで区分される水田跡地に成立する群落タイプ、Gr.5はセイタカアワダチソウ、ヨモギ、ヌスビトハギを指標種とする線状型草地に成立する群落タイプであった。Gr.1とGr.2は入会地型草地や隣接型草地に該当し、キキョウ、クララ、カワラナデシコ等の絶滅危惧種・希少種を内包する半自然草地であることが明らかになった。


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