| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T23-3

表現型可塑性が生みだす生物群集ネットワーク

大串隆之(京都大・生態研)

生物群集のネットワークは、これまで食う食われる関係に基づく「食物網(food web)」によって理解されてきた。このため、非栄養関係・形質を介した間接効果・相利片利関係が生物群集の組織化に果たす役割については、ほとんどわかっていない。しかし、自然界で普遍的なこれらの関係は、生物多様性の維持と創出を担っていることが明らかになりつつある。

演者は生態系の基盤生物(生産者)である植物の「被食による形質の変化」に注目して、食物網にこれらの関係を組み込んだ「間接相互作用網(indirect interaction web)」という考え方を提唱した(Ohgushi 2005)。陸上植物の上では、被食による植物の成長や質の変化が、それを利用する多様な生物の間に相互作用の連鎖を生み出し、生物群集に多様性と複雑性をもたらしている。それは、植物の形質の変化が多くの間接相互作用・非栄養関係・相利片利関係を生み出し、新たなニッチを創出するからである。また、間接相互作用網の解析から、時間的・空間的に棲み分けている生物や系統的に異なる生物も、植物を介して、生物群集のネットワークにしっかりと組み込まれていることがわかってきた (Ohgushi 2008; Ohgushi et al. 2007)。

本講演では、間接相互作用網がもつ生態学的意義について、(1)生物多様性の維持・促進のメカニズム、(2)形質介在の間接効果の普遍性、(3)トップダウンとボトムアップ効果の統合、(4)表現型可塑性に基づく進化生物学と群集生態学・生態系生態学の統合、などの群集生態学の新たな課題に対する貢献から考えてみたい。


日本生態学会