| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-150

放牧シバ草原において牛糞が土壌及び植生に与える影響

*五月女皓海,吉竹晋平(早稲田大・院・先進理工),小泉博(早稲田大・教育)

放牧シバ草原では放牧自体の踏圧や被食、排泄物などの影響があり、中でも家畜排泄物は有機物や養分の供給源として重要である。本研究では、放牧シバ草原の牛糞に焦点をあて、フンの供給・分解過程、そしてそれらが土壌や植物体におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。

調査は、岐阜大学高山試験地に隣接する牧場で5月末~10月の放牧期間中に行った。100 m×30 mの調査区を設置し、調査区内に供給されたフンの個数、重量を測定した。また、牛の侵入のないシバ地にフンを設置し、1ヶ月おきにフンの重量変化と呼吸速度を測定した。さらに、フン直下および周辺の土壌を採取し、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度を測定した。加えて、シバの地上部現存量の測定を行った。

フンの年間供給量は、炭素で4~10 gm-2、窒素で0.5~1.5 gm-2であった。フンの重量は最初の1ヵ月で30%程度にまで減少し、その大部分は無機化されて二酸化炭素として大気中に放出されていた。したがって、有機物として土壌に入る炭素の量は少ないことが明らかになった。一方、フン供給から1ヵ月後に土壌中アンモニア態窒素が4.4倍に増加したことから、無機態の窒素が土壌に供給されたことが示された。このアンモニア態窒素は、その後硝化により硝酸態窒素へと変化した。またフン周辺では、植物体現存量は1.4~2.0倍に増加した。これらのフンによる影響がみられた範囲はフンから10 ㎝程度の距離であり、100 m×30 mの調査区内では約0.6~1.0%の面積に相当した。このことは、放牧シバ草原においてフンによる影響がおよぶ範囲が限定的なことを意味しているが、その範囲では土壌や植物体に対して大きな影響を及ぼすため、草原生態系の物質循環において放牧に伴うフンの影響を考慮することは重要であると考えられる。


日本生態学会