| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-161

冷温帯シバ草原における温暖化操作実験 -炭素収支への影響-

*関根有哉,吉竹晋平(早稲田大・院・先進理工),小泉博(早稲田大・教育)

従来、生態系における炭素収支は生態系総生産量(GEP)と生態系呼吸(ER)からなる生態系純生産量(NEP)で評価されてきた。しかし、温暖化がNEPをどのように変化させるかについては不明な点が多い。本研究では草原において温暖化操作実験を実施し、温暖化によるNEPの変化とその制御要因を明らかにすることを目的とした。

調査は、2009年5月から2010年12月まで岐阜県乗鞍岳の冷温帯シバ草原において行った。対照区と、地上から1.2mに遠赤外線ヒーターを設置する温暖化区を設け、積雪期を除き温暖化区の地温が対照区より2℃高くなるように制御した。毎月透明なチャンバーと遮光シートを用いて密閉法でNEPとERを測定し、その差からGEPを算出した。また、地上部現存量(AGB)と葉のクロロフィル濃度を計測した。

その結果、温暖化区のNEPは2009年は対照区よりも多く、2010年は対照区よりも少なかった。一方、ERとGEPは2年とも温暖化区で有意に増加した。AGBとクロロフィル濃度はどちらも温暖化区で有意に増加した。これらのデータを用いてフラックスの制御要因について解析したところ、ERと GEPはどちらも温度やAGBと有意な相関を持つことが示された。ただしGEPは最適温度を持ち、一定以上の温度ではGEPが減少することが確認された。また、クロロフィル濃度はGEPに影響を及ぼさなかった。以上より、温暖化区のERやGEPが増加したのはどちらも温度とAGBによるものであると考えられる。温暖化区と対照区のNEPの大小関係が年によって異なるのは、2010年が例年よりも気温が高かったことで温暖化区の夏のGEPが減少したことが原因だと考えられる。シバ草原では夏の温度がどこまで上昇するかが、NEPの増減を決める重要な要因であることが示唆された。


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