| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T03-1
葉は効率良く光合成を行うために、表側と裏側の性質をもつ平たい形になるのが特徴で、このような一般的な葉を「両面葉」という。一方、アヤメ科やネギ科植物等、一部の単子葉植物は、「単面葉」という裏側だけで構成される葉を持つ。我々は、植物における発生進化学的研究対象としてこの単面葉に着目し、葉の形態が多様で分子遺伝学的研究に適しているイグサ属植物をモデル系として、独自の研究基盤を整備するとともに、その発生進化機構に関する新規な知見を得つつある。本発表では、単面葉の平面化機構に着目した研究結果を報告する。
近年の両面葉のモデル植物を用いた研究により、葉は表側と裏側の境界面で細胞増殖が促進されることで、光受容に適した平たい形になることが明らかにされている。実際、葉が表裏の性質を失った突然変異体では、葉は伸長することができないために丸い断面をもつ棒状の形になる。これに対して単面葉では、中にはネギのように丸い断面の葉をつくる植物もあるが、多くの場合、裏側しか持たないにも関わらず、アヤメのように平面化した葉を作る。つまり、単面葉は、両面葉とは異なる機構で平面化し、平たい葉は両面葉と単面葉で独立に進化した形質であると考えられる。
我々は、単面葉の葉身平面化機構を解明するために、2種の近縁なイグサ属植物、平たい単面葉をもつコウガイゼキショウと、丸い単面葉をもつハリコウガイゼキショウを用いた分子遺伝学的解析を行った。まず発生学的解析と遺伝子発現解析により、その制御に深く関わる因子群を同定し、次に種間雑種を用いた遺伝解析により、これらの因子の1つが、2種間の葉身の平面成長性の差に直接的に関与することを明らかにした。さらにこの因子には、2種間で発現調節因子の活性が異なる可能性が認められた。これらの結果を統合し、単面葉の平面化機構を提唱するとともに、平たい葉身をもつ単面葉の進化機構を議論する。