| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T03-3

アブラムシの繁殖多型とその喪失を担う内分泌基盤

石川 麻乃(北海道大・環境)

アブラムシの多くの種では、春から夏にかけて胎生単為生殖雌が爆発的に増殖する一方、秋には雄と卵生雌が有性生殖を行い、卵で越冬する。このような季節に応じた繁殖様式の切り替え(繁殖多型)はほぼ全てのアブラムシ種で見られ、アブラムシの進化過程の初期に獲得されたと考えられる。一方、比較的温暖な地域では、繁殖多型を二次的に失い、単為生殖のみを行うアブラムシ集団が存在する。このような集団は、多くの種で複数回独立に生じていると考えられている。では、アブラムシで見られるこのような生活史の改変はどのような分子基盤の変化によって生じるのだろうか?本研究では、エンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisumを用い、アブラムシの繁殖多型を担う制御機構を解析するとともに、本種において繁殖多型の喪失をもたらした内分泌基盤の解明を試みた。胎生単為生殖から卵生有性生殖への繁殖様式の切り替えは短日条件によって誘導されることが知られており、その候補制御因子として幼若ホルモン(JH)が挙げられてきた。そこで、長日/短日条件下で飼育した母虫の産子パターンを解析し、JH体内濃度測定、JH投与実験、JH関連遺伝子の発現解析を行った。その結果、短日条件下ではJHの分解を行うJHエステラーゼ(JHE)遺伝子の発現が上昇し、それによって引き起こされたJH濃度の低下が有性生殖への切り替えを引き起こすことが示唆された。次に、繁殖多型の喪失が独立に生じたと考えられる2つの日本国内のアブラムシ集団を用い、長日/短日条件下での体内JH濃度の測定、JH合成・分解に関わる遺伝子の発現解析を行った。その結果、これら2つの集団では、短日条件に応じた体内JH濃度の低下やJHE遺伝子の発現上昇が見られなかった。このことから、アブラムシにおいて複数回独立に生じている繁殖多型の喪失は、繁殖様式の切り替えを担うJH経路の日長応答性が改変されることによって生じたと考えられる。


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