| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T11-2
近年、生態学の分野においても集団遺伝学的なアプローチがとられるようになり、利用可能な分子マーカーの選定、及び、それをPCRで効率良く増幅するプライマーのデザインが重要となってきている。ところが、プライマーデザインには対象となる遺伝子配列情報が必要であるため、ゲノム情報既知生物でない限り近縁種の遺伝子配列を用いて最適なプライマーを推定しなければならない。個別に同定された遺伝子配列を用いることもできるが利用可能な遺伝子には限りがある。系統解析における分子マーカーは一般に保存的な遺伝子配列が用いられるため、近縁種の遺伝子配列を用いてプライマーデザインを行ってもPCR反応が成功する可能性は高い。一方、集団内の遺伝的差異を検出するためには保存的な遺伝子は不適切であり、この場合、近縁種の遺伝子が既知であっても目的に合ったプライマーをデザインすることは困難である。そこで我々は、非モデル生物集団内においても多型が存在する塩基配列の増幅を目指し、比較ゲノム解析によるプライマーデザインを行った。対象生物としてゲノム情報が未知であるヤマアカガエル、グッピー、アノールトカゲ属複数種、コントロールとしてゲノム情報既知種であるキイロショウジョウバエを用いた。対象種と近縁なゲノム配列既知生物2種の全遺伝子配列を用いて相同性検索を行い、2種間で高度に保存されたゲノム領域によって挟まれた遺伝的多様性の高い領域の網羅的検出を行った。プライマーは高度に保存された領域上にデザインした。対象種のゲノムを抽出した後、デザインしたプライマーを用いてPCR反応を行い、電気泳動で単一バンドが得られた分子マーカーの配列を決定した。その結果、いずれの種においても集団内に高頻度で遺伝的多型が観察された。このことは、非モデル生物においても集団遺伝学的解析に利用可能な分子マーカーを比較ゲノム解析により容易に選定できることを示唆している。