| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T20-1
撹乱後の遷移初期における植物定着機構において、植物種間の促進作用(facilitation)の重要性が指摘されている。Facilitationは、撹乱・高ストレス環境において、ストレス耐性のある先駆種が環境形成作用により後続する他種の定着を促進させることで,生態系回復を進行させる。しかし、facilitationの強さや重要性は、空間・時間スケールで変化する様々な環境要因に関連して状況依存的に変化するため、その機構解明が課題となっている。
泥炭採掘跡地は、強光、乾燥化、土壌侵食などにより植物定着が困難な環境であるが、スゲなどが裸地に谷地坊主を発達させることで、定着促進作用をもつことが期待されている。しかし、谷地坊主は、リターの蓄積と隆起構造の発達により複数の環境要因を同時に変化させるため、他種のパフォーマンスに正負の作用をもつと考えられる。また、環境(降水量)の年変動に伴い、谷地坊主による正負の作用のバランスは変化するかもしれない。そこで、谷地坊主‐他種間の空間分布の関連性,環境操作実験による定着促進作用の主要因検出及び4年間の実生追跡調査による年変動の検出を通し、谷地坊主による定着促進機構を複数種を対象に検証した。
北海道サロベツ湿原では、谷地坊主の周囲において外来種を含む多年生草本が多く分布していた。環境操作実験の結果、谷地坊主の周囲では、隆起構造による地表安定化が発芽適地を提供する一方、リター蓄積による被陰と隆起構造による乾燥化が、初期定着種より後期定着種の実生生存・成長を促進させていた。また、少雨年に隆起構造が引き起こす乾燥化作用が強くなり、定着促進作用が弱くなることが示された。
これらの結果は、谷地坊主による環境形成作用が採掘跡地の植物定着を進行させる重要な機構であり、特に隆起構造が生み出す可変的な環境が後期種や外来種の定着を規定することを示唆している。