| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T20-4

保全上重要な湖岸湿原における種・植生レベルの促進効果と伝統的植生管理

*王喆,西廣淳,鷲谷いづみ(東大・院・農・保全生態)

霞ヶ浦南岸の浮島湿原は、絶滅危惧種12種を含む300種以上の維管束植物が生育する約52haの低層湿原である。湿原内の約3.5haの範囲では、植生の中間層(80-100cm)にイネ科植物カモノハシが優占するとともに地表面に蘚類を伴う。カモノハシ優占域は、植物種密度が周辺より有意に高く、絶滅危惧種の多くが集中分布している場所である。そこは、湿原全体の利用管理廃れた現在でも、伝統的な植生利用・管理である萱の刈取りや火入れが高頻度で行われている場所である。

本研究ではこのパターンの成因として、「カモノハシは、株もとに作る微高地およびそこに特異的に生育する蘚類を通して、多様な種の生育を促進する」という「促進仮説」と、「刈取り・火入れはカモノハシの生育を促進する」という「人為撹乱仮説」を設定し、野外調査と実験により検証した。

促進仮説に関しては、湿原内に100cm2の方形区を90個設置し、出現種と微地形を記録し、各種の出現可能性に対する蘚類の存在と微地形の効果を階層ベイズモデルで解析した。その結果、10種中4種では微高地による正の直接効果が、3種では蘚類を介した正の間接効果が認められた。対象種に共通する直接・間接効果も有意だった。また、これらの促進効果は発芽セーフサイトの提供によるものであることが、播種実験から示唆された。

人為撹乱仮説に関しては、湿原内に火入れ区・刈取り区・対照区を設け、各90シュートのカモノハシの相対生長率を比較した。相対生長率は、火入れ>刈取り>対照の順で有意差が認められた。

伝統的な植生利用・管理がカモノハシの成長を促進し、カモノハシが蘚類の生育を促進し、カモノハシと蘚類が絶滅危惧種を含む多様な湿地性植物の生育を促進するという連鎖的関係が示唆された。近年、浮島湿原では火入れが停止されており、絶滅危惧種の生育や種多様性への影響が懸念される。


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