| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T21-3
伊豆諸島はフィリピン海プレート上に形成された南北に連なる9つの有人島とその周辺の無人島で構成される海洋島である。本土から数100kmほどしか離れていないため、種の供給地となったであろう日本本土の生物相との比較も行いやすい。本研究で紹介するのは、伊豆諸島と伊豆半島に生息する被食者(オカダトカゲ Plestiodon latiscutatus)の形質が地域によって異なること、その淘汰圧として異なる捕食者相(イタチ:哺乳類、シマヘビ:ヘビ類、アカコッコ:鳥類) にさらされていること、さらにその被食者―捕食者系がどのような進化史をたどってきたのかを分子系統地理学により解明する試みの3点である。
今回は重要な捕食回避形質であるトカゲの尾の色彩の地理的変異に注目した。オカダトカゲの尾の色彩は鮮やかな青色から地味な茶色まで幅広い変異がみられ、その変異パタンは捕食者の組合せパタンと一致する。特に青い尾は、地味な胴体部との対比で目立つ色を呈することで、捕食者の注意と攻撃を尾部に引きつけ、生存上重要な 頭部と胴体部を防御する機能を持つことで多くのトカゲのグループで進化した適応形質とされている。本研究では捕食者の組合せが異なる3つの地域集団の尾部の色彩を、分光器で定量的に測定し、捕食者の近縁種で明らかにされている錐体細胞の感度ピークと比較した。その結果、イタチおよびシマヘビを捕食者にもつトカゲの反射光のピークは、それぞれの捕食者の錐体細胞の感度ピークに対応することが明らかとなった。これは、捕食者ごとの色覚に対応した反射光特性を持つことで、より注意を引きつけて捕食回避効果を高めていることを示唆した。アカコッコを捕食者にもつトカゲの尾部の反射率は、イタチやシマヘビを捕食者にもつトカゲよりも低かったため、目立つ色で捕食者の攻撃を誘引するためではなく、隠蔽的なものであると考えられた。