| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S01-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

環境倫理学から見た滋賀県水田地帯の環境保全政策の位置づけ―「誰が」生態系サービスを享受するのか?

冨田 涼都(静岡大・農)

滋賀県の「田んぼ研究」は、人と生態系のかかわりに焦点を当てたこと、住民の生活からの視点や知識・活動を重視していることなどが特徴的である。そのスタンスは滋賀県の環境政策だけでなく、他の地域の環境政策や活動、研究のあり方に対しても広く影響を与えてきた。

これら一連の研究や政策が人と生態系のかかわりに焦点を当てることによって、田んぼや湖などから得られてきた生態系サービスの歴史的な変遷が明らかになった。そして、「どのような」生態系サービスが得られるかは、自然環境の状態によってのみ決まるのではなく、技術や価値観などの人間社会のさまざまな要因によって変化してしまうことが示されてきた。

一方、住民の生活からの視点や知識、活動を重視した研究や政策は、「水」や「魚」などの生態系サービスが、誰によって消費されてきたのかという点を明らかにし、多様な主体間で共有することに一定の成功を収めてきた。これは、個々の生態系サービスが「誰」によって享受され、あるいは享受されるべきものなのかという問題の提起にもなっている。また、自然の負の側面(環境リスク)との緊張関係をもあぶりだすことになった。その結果、研究や政策の展開の中で、生態系サービスの受け手としての住民自身が直接参加し、研究や政策のプロセスがボトムアップ的な性格を帯びるのは自然な流れでもある。

以上のように「田んぼ研究」などの一連の取り組みは、結果的に自然環境から、「どのような」生態系サービスを「誰が」享受するべきなのかという問題と、その裏返しとして環境リスクを社会的にどう分配し、誰が負うのかという問題を同時に提起している。その点において「田んぼ研究」などの取り組みは、環境倫理学などにおいて、社会的マイノリティへのリスク偏在を中心に議論が展開してきた環境正義(Environmental Justice)の観点からも注目すべき論点を提供していると言えるだろう。


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