| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
シンポジウム S01-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
琵琶湖集水域・内陸部の水田地帯では慣行農法に加え、生物多様性に配慮した様々な農法が行われている。また、これらの農法だけでなく、水田に魚道を設けたり、排水路を堰上げすることにより、水田への魚類の遡上を可能にするなどの取り組みも行われている。しかし、琵琶湖集水域・内陸部の水田地帯に生息する水生動物の多様性に関する網羅的なデータは十分でなく、過去と現在の水生動物の多様性を直接比較することは困難である。本研究では、琵琶湖集水域・内陸部の水田地帯において、肉眼で確認可能なサイズの水生動物の多様性の現状を把握することを目的として、9地域26筆の水田で田植えから中干しの間に調査を行った。また、得られた結果から、水生動物群集組成と農法や水田の環境との関係を明らかにすることを試みた。
結果、同定の精度に差はあるものの、26筆の水田から脊椎動物、無脊椎動物を含め、少なくとも6門11綱123分類群の水生動物が確認された。このうち昆虫綱は8目81分類群と多数を占めた。これら81分類群のうち少なくとも71分類群で幼虫が確認された。異なる農法を取る水田の間での水生動物の分類群数、密度、多様度に有意差は見られなかったが、水生動物の分類群数は乾田より半湿田・湿田で有意に多かった。群集組成のパターンを調べるために、分類群数の多かった水生昆虫の群集組成について解析を行った結果、湖西地域、湖東地域の水田が異なるグループに分かれる傾向が認められた。これらの結果より、水田は多くの水生昆虫の繁殖場所として利用されており、琵琶湖集水域という限られた範囲の中でも水生昆虫の群集組成に地域性があることが示唆された。このことより、異なる農法が水生動物群集へ与える影響を明らかにするためには、今後、個々の集落のようなより狭い範囲にある農法の異なる水田で、同様の研究を行うことが必要と考えられる。