| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S01-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

湖国の水田地帯における生物多様性研究の現在・過去・未来

金尾 滋史(琵琶湖博物館)

これまで琵琶湖博物館をはじめとする研究機関が実施してきた湖国における「田んぼ研究」では、「ヒト」が関わるフィールドとして、水田地帯の生物相、水田のもつポテンシャル、水田の中で起こっている生態学的事象やその現状について明らかにしてきた。これらの過程は、個々の生物や分類群に注目したスペシャリスト的な研究から群集など多くの生物群を広く扱うジェネラリスト的な研究まで多岐にわたっており、研究分野しいては研究者の多様性が自然とこの湖国の田んぼの生き物研究を多様化させているといっても過言ではない。2010年より琵琶湖博物館で開催している「琵琶湖地域の水田生物研究会」は、実に多様な分類群の発表が集まり、さらに研究者だけではなく、農家や地域住民なども演者となった多主体参画的な研究会となっている。プロアマ問わず、多様な田んぼの生き物の研究が集積する場を形成し、橋渡しすることは博物館の使命の一つでもあり、それが結果的に多様性を生み出すことにもなるだろう。

一方で、このように明らかになってきた知見を集約して考えたとき、あらためて水田地帯の機能を河川氾濫原、琵琶湖岸、内湖などと比較すると、水田地帯はいったいどの自然水域の「代替地」となっているのだろうか?例えば、琵琶湖周辺の水田地帯を利用する魚類はその利用目的などが徐々に明らかにされつつあるが、各魚種にとって実際の水田地帯は河川や琵琶湖との関連性が高い面もあれば、かけ離れた面もある。水田地帯の生態学的意義を再確認するためにも、それぞれの水域のもつ生態学的特性から水田地帯との共通性・特異性を見い出していくための研究が今後は必要となってくるだろう。

周辺水域と比較した水田地帯の価値、そしてそれを様々な人が関わりあう中で生み出していくことが今後の湖国の水田地帯における生物多様性研究の未来へ向けて臨むべき視点なのではないだろうか。


日本生態学会