| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
シンポジウム S08-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
東アフリカの乾燥半乾燥地域には多数の牧畜民が暮らしている。その1つであるマサイの人びとは、農耕や狩猟採集よりも牧畜という生業に強く執着する「ウシの民」とされるいっぽうで、乾燥半乾燥地において野生動物と歴史的に共存してきた環境主義者ともとらえられてもきた。そのため、「コミュニティ主体」を掲げる今日の住民参加型の野生動物保全において、マサイの人びとは、政府をはじめとする外部者と協力・協働して保全を担うべきアクターと考えられている。ただし、そうした外部者のなかば一方的な期待が、現場で常に叶えられるわけではない。これまで「コミュニティ主体」の試みが失敗する理由については、社会科学的な検討が重ねられており、筆者自身もそうした観点からの調査・研究をおこなってきた。それにたいして本報告では、東アフリカ牧畜社会のなかにおけるマサイの特徴を、彼ら彼女らが暮らす生態環境の観点から再検討することをつうじて、これまでの議論で抜け落ちていた視点があるのではないかという点を考えてみたい。具体的な報告内容としては、今日のマサイランドにおける野生動物保全の概況を説明したのちに、東アフリカ牧畜社会に見られる複数の生業類型を説明し、それらの違いが文化的な要因というよりも生態的な条件に起因していること、そして、そうした生業の違いが民族間の政治体系の差異とも関係していることを説明する。そのうえで、そうした生態学的な観点を踏まえることで、今日の野生動物保全に見られる「牧畜民」のイメージについてどのような批判的な考察が展開可能となるのかを検討したい。