| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S09-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物多様性評価の地図化の政策的・科学的意義

中村太士(北海道大・院・農)

我が国は、1993年に生物多様性条約を締結し、1995年から4次にわたり生物多様性国家戦略を策定してきた。また昨年は、生物多様性条約締約国会議(COP10)が名古屋で開催されるなど、生物多様性の保全に向けた取り組みが注目されるようになってきた。2010年、GBOの日本版であるJBO(日本生物多様性総合評価報告)が発表された。演者も、この作成委員会に参画したが、生態系別の評価結果の多くは「1950 年代後半から現在に至る評価期間において生物多様性は大きく損なわれており、長期的には悪化する傾向で推移している。」というものであった。

こうした生物多様性の損失を緩和するため、生物多様性国家戦略2010において「生物多様性の危機の状況を具体的に地図化し、危機に対する処方箋を示すための診察記録(カルテ)として活用すると同時に、生物多様性の保全上重要な地域を選定すること」が示された。また、COP10において2010年以降の生物多様性の世界目標となる「ポスト2010年目標(愛知目標)」が採択され、各締約国はこの目標の達成に向け、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組の一層の進展が求められている。

こうした背景を受け、生物多様性の地図化委員会が発足した。この目的は、日本の生物多様性の状況を様々な主体に広く認識してもらうこと、そして、環境行政における政策決定の判断材料を提供することである。近年、国土全体の生物相データも、不十分ではあるが徐々に整備されるようになってきた。GISと種の分布モデルなど、解析ツールも進歩し、ある程度の精度で、生態系評価が実施できるようになってきた。今回は、その成果の一部を披露し、保全施策への具体的な一歩を踏み出すために、実りある議論ができればと思う。


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