| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
シンポジウム S09-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物多様性の地図化は、古くて新しい学際領域である。古くは、温量指数による植生区分や潜在自然植生の推定、汚水生物学による環境区分などの研究が行われてきた。かつても今もそうであるが、既知の不完全な情報から、ポテンシャルを類推する試みが続けられている。2000年以降には、膨大な空間データや高度な統計処理の技法を用いたSpecies Distribution Model(SDM)やEcological niche model(ENM)として国際的に注目度の高い研究分野として発展し、景観生態学や進化学や保全生物学にも適用されるようになった。我が国においても、第3次生物多様性国家戦略において、生物多様性の地図化が目的化され、ポテンシャルマップを用いた保護区域の選定や気候変動応答、環境アセスメント、自然再生適地の推定が期待されている。本講演では、生物分布データを用いたポテンシャル推定についての課題と利点について総論し、国内外での解析事例や技術的な進展、施策への活用事例を解説する。次に、現在進行中の生物多様性総合評価(JBO)における地図化作業とポテンシャルマップの作成について紹介する。ここでは、日本列島スケールにおいて、新たな地形パラ-メーターをもとに沿岸干潟に生息するシギ・チドリ類および気候変動に対するイワナ属の応答特性などの例をあげて解説する。最後に、ポテンシャルマップの課題について取り上げ、特に不完全で偏りのある情報の扱い、モデルの信頼性や施策化への適・不適な状況について紹介する。生態系管理は、地図化自体が目的ではなく、むしろ出発点であることを具体的な事例をあげて説明し、全体フレームワークのなかでの位置づけが重要となることを論じる。