| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
シンポジウム S09-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物多様性条約COP10において合意された愛知目標の中では、陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%を保全対象域とするという数値目標が掲げられた。実効性のある保全のためには、単に面積がこの目標を満たせばよいというものではない。どこに、どのくらいの、あるいはどのような保全努力を注ぐとどのような効果があるのかを定量的・客観的に明らかにする必要がある。
従来、空間的な保全の優先づけでは、種数など、特定の指標の値が高い順に優先づけを行う、スコアリングとよばれる考え方が採用されることが多かった。しかし、スコアの高い地域どうしは種の組成や環境条件の点で良く似たものを含むことが多いため、「できるだけ多様な生物種を保全する」といった総体的な生物多様性の保全を目標とする場合に効率的でないという問題があった。そのため、近年では「相補性」とよばれる概念にもとづいた保全優先づけ手法が用いられるようになっている。たとえば相補性解析では、すでに選択した保全地域には生息しない種をなるべく多く含む(=相補性が高い)地域を重視した優先づけがなされる。
本講演では、相補性解析の原理と手法を先行事例を交えて概説する。また、今回の生物多様性評価の地図化において実施した、絶滅危惧維管束植物を対象とした解析と地図化について解説を行う。
日本全国スケールにおける定量的な保全地域の優先づけ結果の公表は、演者の知る限り今回が始めての試みである。今後、保全のための効率的な戦略を明示的かつ分かりやすく示す地図化の手法が、さまざまな保全対象および国・都道府県・市区町村などのスケールにおいて活用されることが期待される。一方で、相補性解析は、十分な生物の分布情報が得られること、評価の空間単位が適切に設定されていることを前提としており、それらを満たさない場合の結果の利用には細心の注意が必要である。