| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S10-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

カーソンの生態学―――『沈黙の春』と『海辺』より

多田満(国環研)

カーソンは『沈黙の春(Silent Spring)』(1962)で、「ニレの木─キクイムシ─殺虫剤─ミミズ─コマドリ」の連鎖を例に挙げて、食物連鎖による生態学的な相互作用(捕食─被食関係)について解説している。このような生物間の相互作用は、ほかに「正の相互作用」である相利共生や「負の相互作用」である競争などが知られる。それは、「どこに生物がすむか、またどれだけ豊富に存在するか」、つまり「分布」と「個体数」を決定する鍵となる。

また、カーソンは『(The Edge of the Sea)』(1955)のなかで、底生の無脊椎動物の詳細な観察を通して、「岩礁海岸」の潮間帯の大型褐藻のツノマタ類が、棲み場所の物理的な「環境の緩和」の役割を果たしていることに気づいて、海藻や海草のさまざまな無脊椎動物への正の影響について述べている。つまり、「環境の緩和」による「正の相互作用」が海藻や海草の生物群集構造に影響を与え、さまざまな生物の共存を可能にしていることが示されている。「サンゴ礁海岸」のマングローブの森に関しても、「そこにいる動植物はすべてマングローブとの生物学的な絆によって結ばれているのだ」と述べている。

個々の生物は、このような相互作用による「つながり(あるいは、絆)」をもつことで共存している。これら関係の総体(ネットワーク)が生物群集の様相である。それは、相互作用─「つながり」─関係の総体によって自ずと完成された「共存の世界」そのものである。前述の「正の相互作用」も「負の相互作用」も、共存に向かうステップであり、カーソンのいう「自然の力(自然の変貌に対してカーソンが感じた普遍の『生命力』)」により共存へと向かう。その力は、「共存力」とよべるものである。彼女は、「人類は自然の一部にあるにすぎず、あらゆる生物を統制する広大無辺の力の支配下にある」と述べているが、「共存力」は、この「広大無辺の力」の一つといえるだろう。


日本生態学会