| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T15-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

コケ類との生物間相互作用から見た倒木上の北方針葉樹種の更新動態

飯島 勇人(山梨県森林研)

本発表では、北方林において倒木上で更新する針葉樹種(エゾマツおよびトドマツ)の更新動態に非生物的要因(光、倒木の硬度、倒木の水分条件)および生物要因(被陰、コケ群落の厚さ)が与える影響を検討した。倒木の硬度が倒木の腐朽段階を示すと仮定すると、倒木の腐朽と共にコケ群落は厚くなるが、腐朽が相当に進行した段階では薄くなっていた。これは、腐朽の進行とともに倒木上に針葉樹が更新し、倒木表面が暗くなることによる可能性が考えられた。また、倒木上にコケ群落が発生することで、倒木表面は乾燥しにくくなる傾向が認められた。倒木上での発芽は、エゾマツではコケ群落が厚すぎず明るい箇所で多く、トドマツはコケ群落が発生していればその厚さによらず多かった。また、地表ではエゾマツの発芽はほぼ見られなかった、トドマツでは倒木と同程度の発芽が見られた。一方、実生の生残は、エゾマツでは明るく被陰されていないほど生残率が高かったが、トドマツでは明るいほど生残率が高かった。また、相対光量子速密度(rPPFD)が5%未満での稚樹の生残率は、エゾマツの方が有意に低い傾向が認められた。そのため、エゾマツはコケがまだ発生しておらず明るい倒木にいち早く定着しているのに対し、トドマツは地表も含めたより広い環境に定着、生残することで個体群を維持していると考えられた。倒木にコケ群落が発生するのは、倒木発生から6年以上の時間が必要と推定され、エゾマツが個体群を維持するためには倒木発生後の6年間が重要であると考えられた。以上から、倒木上に発生する樹木の更新動態は倒木上に発生するコケ群落の影響も受け、しかも樹種および発達段階によってその重要性が変化していることが示された。


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