| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-18 (Oral presentation)

葉色を決める要因―新葉と古葉の色比較から―

山崎一夫(大阪市環境科学研)

植物の新葉と古葉は、アントシアニンあるいはベタレインによる赤色を帯びることが多い。この赤色の適応的意義に関して、さまざまな仮説が考えられてきた。その中でもとくに重要なものは以下の2つである。(1)赤色の色素は、葉の細胞を紫外線による障害などから守る生理学的機能をもつ。(2)赤色は植食性昆虫に対する防御的な機能をもつ。しかし、新葉と古葉において、どちらの要因が重要であるかは不明である。今回、新葉と古葉の色彩を比較することにより、新葉と古葉の色彩に作用している選択圧が異なっているかどうかを検討した。植物種内において新葉と古葉に同じ選択圧がかかっているなら、両者の色彩は同じになるはずである。

近畿地方を中心に、30種の樹木と50種の草本植物において、新葉と古葉の色彩を記録し検討した。その結果、新葉が緑色の樹木ではほとんど例外なく古葉は黄色であった。しかし、新葉が赤色の樹木には、古葉は赤色になる種と黄色の種があった。草本植物においても同様の傾向があったが、新葉が緑色で古葉は赤色の種も存在する点が異なっていた。以上のことから、新葉と古葉に作用する選択圧は異なっている場合がかなり存在すると推測された。植食性昆虫相とその食害量は春と秋で大きく異なるため、葉の色彩の選択圧として重要なのかもしれない。ただし、一年生草本が結実期に全体が赤くなった後に枯死するようなケースでは、赤色の色素は生理学的な機能をもつであろう。


日本生態学会