| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-19 (Oral presentation)

越冬形としてのロゼットシュートにはなぜ茎がないのか?

*種子田春彦(東京大),古水千尋 (Monash大),梅林利弘 (Utah大),館野正樹(東京大)

背景 ロゼットシュートは、茎の節間が極端に短くなり地表面付近に葉を生やす形態を持つ。この顕著な茎を持たない形態は、雪や枯れた葉に埋まりやすいため冬の低温から葉や成長点を守ることができるという利点があるとし、越冬形のひとつに分類されている。ロゼットシュートを越冬形として持つ草本種は、温帯から寒帯、高山帯まで広く分布している。このうち、温帯では、亜寒帯や寒帯・高山帯と異なり、冬の寒さも穏やかであり、低温が分布の制限要因ではない可能性がある。このような場所では、茎を持つ高茎のシュートで越冬する個体があれば、光競争の結果、ロゼットシュートの茎の無い形態は排除される可能性が高い。そこで、温帯では、冬季に顕著な茎を持つことが原因で何らかのストレスが起こり、高茎のシュートが侵入できない状況にあると予想される。

結果と考察 本研究は、道管液の凍結融解によって道管内に生じる気泡が水輸送を阻害する木部閉塞現象に注目した。木部閉塞現象は、道管直径が大きい植物では深刻な通水阻害をもたらすことや、道管液の凍結融解は0℃付近の気温で起きることから、温帯であっても必ず影響があると考えた。栃木県日光市でセイタカアワダチソウの種子を7月に蒔いて花期を遅らせ、高茎のシュートを栄養生長のままで冬を迎えさせた。最低気温が‐4℃にまで下がった11月終わりから茎の通水能力は低下し、12月中旬にはほぼ通らなくなり、1月中旬までには全個体が枯死した。一方でロゼットシュートの葉柄木部では、12月中旬でも木部閉塞現象は起きていなかった。このことは、葉と茎とで木部閉塞現象への抵抗性を比較した結果からも支持された。そこで、セイタカアワダチソウでは、高茎のシュートが冬季に深刻な木部閉塞現象を起こすために、顕著な茎を持たないロゼットシュートが越冬形として温帯域でも進化した可能性が示唆された。


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