| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-02 (Oral presentation)

繁殖干渉は性の維持をもたらすのか?:セクハラを巡る性拮抗的共進化の理論的解析

川津一隆(京大院・農)

繁殖干渉は異種間の配偶を巡るあらゆる種類の負の相互作用と定義され,近縁種間の棲み分けや寄主特異性の違いを説明する要因として注目を浴びつつある.この繁殖干渉に注目して性の維持問題を考える場合,オスが不在の単為生殖生物からは干渉が発生しないため性の維持に有利に働くと予想される.しかしながら,そのためにはオスが単為メスに対して強くセクハラを行うことが必要となり,そのような一方的なセクハラはオス繁殖成功の低下につながるため性の維持に有利な繁殖干渉は進化しにくいと考えることもできる.

本講演ではセクハラの効果に関する上記のような矛盾を解消するために,有性系統に特異的なセクハラを巡る性拮抗的共進化の存在に着目した.有性生物ではセクハラのコストを下げる抵抗性がメスにとって有利になるため,オスのセクハラ形質との間に性拮抗的選択圧が働き両形質は高い値に進化,維持されることになる.一方でオスが不在の単為系統ではメス抵抗性に対する選択圧は存在せずに集団中から失われることになる.そこで,このセクハラを巡る性拮抗的共進化を考慮した数理モデルを作成して解析を行ったところ,確かに性の維持のためには単為メスに対して非対称に働くセクハラコストが必要となるが,有性系統における性拮抗的共進化の進行によってその条件を満たしうることが明らかとなった.さらに非対称なセクハラコストが進化可能な条件では有性系統に単為系統が侵入することが不可能なために,両系統間で側所分布が形成されることが分かった.これらの結果は,個体群生態学のトピックである繁殖干渉を進化生態学の観点から考える事で,種間レベルでの性の維持問題だけでなく地理的単為生殖などの性の維持に関わる諸問題の解決にもつながることを示している.


日本生態学会