| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-03 (Oral presentation)

生活史戦略としてのヒトの閉経およびゲノム内コンフリクトから理解する周閉経期諸症状:その数理モデル

Francisco Ubeda(Royal Holloway), *大槻久(総研大), Andy Gardner(Oxford)

雌が死亡前に繁殖をやめてしまう閉経は、哺乳類ではヒトと一部のハクジラでのみ知られている特異な現象である。Cantらの繁殖コンフリクト仮説によれば、雌偏向分散が引き起こす個体間の血縁度の非対称性により、老齢雌にとっては自ら繁殖せずに同集団の雌の繁殖を手伝うことが有利になる。ヒトの女性の閉経は、その前段階に女性ホルモン量の激しい変動が起こる更年期および周閉経期を伴う。閉経が適応だとしたら、なぜ閉経への移行はスムーズに起こらないのだろうか。

本研究ではその原因としてゲノム内コンフリクトの影響に注目した。雌偏向分散、もしくは雄に偏向した強い繁殖の偏りの存在化では、母親由来と父親由来の遺伝子の間で遺伝子レベルの血縁度の非対称性が生まれ、母親由来遺伝子は閉経を遅らせることが、反対に父親由来遺伝子は閉経を早めることが、包括適応度上有利になると予測される。このゲノム内コンフリクト、特に遺伝子座内コンフリクトの帰結をゲームモデルを用いて理論的に解析した。

第一のモデルではエストロゲン量を制御する遺伝子座における対立を考えた。高いエストロゲン量は排卵直前のLHサージを早く引き起こすので月経周期を早め、結果として女性の妊性を下げる。反対に低いエストロゲン量は月経周期を遅らせ、やはり妊性の低下につながる。解析の結果、妊性を保とうとする母親由来遺伝子とそれを低下させようとする父親由来遺伝子のコンフリクトは、表現型レベルにおいてエストロゲン量の不安定な変動をもたらすことが分かった。

次に、この遺伝子の発現量を戦略とする量的モデルを分析した。その結果、二つの遺伝子間で最適発現量のピークが大きく離れている場合には、母親由来遺伝子の発現が完全に抑制される可能性が示唆された。


日本生態学会