| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-020 (Poster presentation)

冷温帯林におけるブナの衰退 -20年間の毎木調査の結果から-

*山崎理正,金子隆之,高柳敦(京大院・農),安藤信(京大フィールド研)

近年,世界各地からブナ科樹木の衰退の報告がある。寿命を迎えたブナ科樹木が何らかのストレスにさらされ,最終的には菌類や食葉性昆虫,穿孔性昆虫の攻撃を受けて枯死に至るなど,衰退には複数の要因が関与していると考えられている。冷温帯と暖温帯の境界域にあたる京都大学の芦生研究林では,シカの過採食による下層植生の消失やナラ枯れによるミズナラ大径木の枯死など,今世紀に入ってから劇的な変化が起こっている。林内で大径木の枯死が目立つブナに注目し,その成長と生残,胸高直径10cm以上への進級状況を解析した。解析には,スギとブナが優占する芦生研究林のモンドリ谷(16ha)において1992年から5年毎に20年間継続した毎木調査のデータを用いた。

1992〜1997年を1期,1997〜2002年を2期,2002〜2007年を3期,2007〜2012年を4期とすると,スギの胸高断面積合計は1期から4期にかけて増大し続けたのに対し,ブナの胸高断面積合計は1期から4期にかけて徐々に減少した。直径の増大に伴う成長量の変化を考慮した上で比較すると,スギとブナの直径成長量は1期から3期にかけて減少し4期に増加した。同様のパターンはミズナラやミズメなど他の優占種でも見られた。また,スギの枯死確率は直径が細いほど高くなっていたのに対し、ブナの枯死確率は直径が太いほど高くなっていた。胸高直径10cm以上への新規加入個体数はブナでは3期にピークが見られた。多くの優占種の成長に同様の影響を及ぼすような長期的な変化が調査地で起こっていること,ブナでは大径木が枯死しやすい状況が20年間続いていること,新規加入はあるものの胸高断面積合計は減少し続けておりブナは衰退過程にあることが示唆された。


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