| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-199 (Poster presentation)

情けはハチの為ならず:行動実験から探る花色変化の適応的意義

*牧野崇司(山形大・理・生物), 大橋一晴(筑波大・生命環境)

被子植物の咲かせる花の色は、咲いてから閉じるまで、ほぼ一定に保たれることがほとんどである。しかしなかにはニシキウツギのように、咲かせた花の色を途中で変える植物が存在する。この花色変化を呈する植物に共通の特徴として、色変化後の花における花粉の授受や蜜生産の終了があげられる。変化後の花の役割についてはこれまで、株を目立たせることで多くの送粉動物を誘引する効果などが指摘されている。

花色変化は「空間学習に長けた送粉者の囲い込み」にも役立ちそうだ。ハナバチやハチドリなど、花粉をはこぶ動物のなかには蜜の少ない株の位置を覚えて避けるものがいる。もしある株が色を変えずに古い花を維持すれば、蜜を出す若い花との見分けがつかなくなる。蜜あつめに手間のかかる株も、空間学習の得意な送粉者に避けられそうである。花色変化はこの事態を回避するための適応ではないだろうか? すなわち花色変化を示す植物は、古い花を維持して株を目立たせ送粉者を誘引する一方で、蜜のありかを親切に教えて彼らをリピーターとして囲い込み、訪問頻度の最大化を図っているのかもしれない。

この仮説の検証のため、4.0 m x 5.5 m、高さ2.0 mのケージの中でクロマルハナバチと人工花を用いた実験を行った。実験では3タイプの株(古い花を維持せず落とす「落花型」、古い花を蜜を出さずに維持する「延寿型」、蜜を出さない古い花の色を変える「変化型」)8株ずつを並べ、ハチを放し、各タイプへの訪問回数を約4時間にわたって記録した。なお、変化前後の花色は白・黄・紫から選び、6通りの組み合わせを試した。

その結果、全ての組み合わせで「囲い込み」の効果が確認された:延寿型はハチにしだいに避けられたが、親切に色を変える変化型は繰り返し訪問されていた。なお、色の組み合わせによっては古い花の維持がハチの誘引に貢献しないことも明らかとなった。


日本生態学会