| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-328 (Poster presentation)

どのような種や状態の博物館標本の種子が生きているのか?

*志賀隆(新潟大・教育), 港翼(新潟大・教育),長谷川匡弘(大阪自然史)

博物館の標本庫には100年以上前のものから現在に至るまで、数多くの植物標本が収められており、都市化などにより現在では失われてしまった集団の標本も残されている。このような標本から種子や胞子を採集し、撒きだすことによって失われた集団を復元したり、遺伝的に劣化した集団の遺多様性を回復させたりすることができる可能性がある。そこで、本研究では標本の種子から集団を復元することが可能な種をリストし、その状態を明らかにするために、発芽試験と種子の染色試験を行った。

調査対象種は絶滅危惧植物を中心に選び、大阪市立自然史博物館(OSA)において81種255点の標本から種子・胞子を得た。発芽試験は段階温度法を用いて行い、未発芽種子はテトラゾリウム1%溶液に浸けて胚の酵素活性の有無を確認した。

発芽試験の結果、18種33点の標本種子からの発芽が確認できた(1番古いものは1989年採集のミヤコグサ)。また、テトラゾリウム染色試験によって未発芽種子の胚が赤色に呈色し、酵素活性があった標本は47種74点であった(1番古いものは1925年採集のヒメヒゴタイ)。未発芽の生存種子は発芽条件を変えたり、植物ホルモンを添加したり、生存組織を培養することにより、発芽実生や成長した植物体を得ることができる可能性がある。発芽や呈色反応が確認された標本は採集年からの時間経過とともに減少した。発芽もしくは呈色反応が確認され、種子が生存していると判断できたものは合計53種(全種の65%)、107点(全標本の42%)であった。

以上のことより、標本種子を用いて失われた集団を復元することは種によっては可能であり、標本庫に収められている植物標本は野生植物のシードバンクとして重要な役割を果たせると結論した。なお、現在も発芽試験を継続しており、これらの結果についても報告する予定である。


日本生態学会