| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-329 (Poster presentation)

岩手県におけるゴマシジミ生息地の保全を目的とした湿性群落の刈取り管理

新井隆介(岩手県環保研センター)

岩手県では、県条例によりゴマシジミの捕獲等を禁止し、一部の生息地では、保全のため刈取り管理を実施している。盛岡市のゴマシジミ生息地は、ヨシやカサスゲなどが生育する湿生群落であり、2006年から毎年11月に刈取り管理を実施している。しかしながら、近年、ゴマシジミの生息数が減少しており、本種の食草であるナガボノシロワレモコウと競合するヨシが繁茂したためと考えられた。このことから、ヨシの優占程度を低下させる刈取り管理を検討するため、生息地周辺の同様な立地環境において、2011年6月に全草の刈取り処理を実施した。その結果、ヨシの優占度をある程度低下させる効果はあったが、食草の開花シュートに対する負の影響がみられたため、2012年は食草を選択的に残した刈取り処理を同じ時期の6月に実施した。調査は、刈取り処理を実施した処理区と実施しない対照区において、5×5㎡の方形区を設定し、植物社会学的な植生調査と立地環境調査を行い、さらに食草の開花シュートについて、その数と花穂数/シュート、植物高を計測した。その結果、処理区では、対照区に比べて群落下層の相対光量子密度が高かった。また、ヨシの優占度は2011年と同程度であったが、食草の優占度は高くなる傾向にあり、さらに開花シュート数や花穂数は増加する傾向にあった。これらのことから、食草を選択的に残した6月の刈取り処理は、群落下層の良好な光環境を形成するとともに、食草に対する負の影響が少なく、刈取り管理として有効であると考えられた。対照区では、植生遷移が進行したため、食草はヨシや木本類などに被圧され、2011年と比べ優占度は低下し、開花シュート数が減少する傾向にあった。その一方、花穂数は増加する傾向にあり、これは刈取り処理の影響を受けないため、一部の個体が充実したためと考えられた。


日本生態学会