| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-334 (Poster presentation)
地史的環境変動および近年の温暖化リスク下にある高山における絶滅危惧植物保全を目的とし、2010年に、絶滅危惧IA類に指定されている北海道アポイ岳のみに生育するヒダカソウ及び、崕山のみに生育する同属のキリギシソウについて生育状況と遺伝的多様性の解析を行なった。
ヒダカソウは、株数、開花株数ともに減少しており、特にこの数年間の開花株の減少が著しかった。一方、キリギシソウは、数十年前に盗掘の影響で各集団の株数は数十株に減少していたが、2000年以降の数の推移は横ばいであった。
15座のマイクロサテライトマーカーを開発し、開花個体を用いて遺伝解析を行なった。その結果、両種ともに集団間に遺伝的分化が見られた。キリギシソウでは、他の集団と反対斜面にある1集団で遺伝的多様性が少ない傾向があり、また大きい生育地では高い傾向があった。ヒダカソウでは全体的にクローン株の割合が多く、キリギシソウでは、ヒダカソウと比較するとより種子繁殖に偏っていることが指摘された。さらにキタダケソウ属の種間比較を行える5座を用いて、絶滅危惧種Ⅱ類のキタダケソウを合わせて比較を行なったところ、ヒダカソウ(4n)、キタダケソウ(2n)、キリギシソウ(2n)の順に遺伝的多様性が高いことが明らかになった。また、ボトルネック解析(I.A.M)の結果、ヒダカソウ、キリギシソウは最近のボトルネックを受け、キタダケソウは受けていないことが示された。
これらの結果から、今後の温暖化(高山地域での乾燥化)等による環境変動の影響を考えると、両種ともに生息域内と生息域外の両面で保全の必要性が高まっている。今後、それらの保全策として、適切な人工交配や生息域外保全対象個体の選定を行うに際して、遺伝情報を有効に活用する必要がある。