| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-337 (Poster presentation)
生態系サービスの三本柱の一つである文化的サービス(文化的生態系サービスと称す)には,生態系によって生み出される芸術,観光,料理など文化の継承,発展,活用など幅広い事象が含まれる。生態系保全の啓発・普及を体系的に進めていくには,これら文化的生態系サービスの変遷や現状の把握は必要不可欠である。しかし,文化的生態系サービスに関する科学的な研究例は数少ない。そこで,本研究は,野生菓子(アケビなどの生食可能な菓子的な野生植物)に対する知識・経験の地域的特徴や時代変遷を明らかにすることで文化的生態系サービスの現状を把握することを目的とした。
調査方法は,年齢,幼少期の住居周辺の自然環境や遊び方,自然の知識や知恵を誰に教わったかなど個人の自然との関わり度合に関するアンケート,ならびに,アケビ,ツバキ,クワ,ノイチゴの4種の野生菓子に関する知識や経験などのアンケートを行った。アンケート回答者は,20歳以下,30代,40代,50代,60代,70歳以上の年代区分で各50名以上,計322名であった。
解析の結果,野生菓子に対する知識は年齢が高くなるにつれて高くなる傾向を示した。また,それを食べた経験については,50代を境に急激に低下した。野生菓子の知識を誰から教わったのかを聞いた結果では,40代よりも上の年代では父母祖父母等の割合が高かったのに対し,30代以下の年代は小学校の教員から教わった割合が高かった。これらのことから,野生菓子に関する文化的生態系サービス(文化伝承)は1960年代頃から急激な低下がはじまり,現在も低下の一途を辿っていること,その要因として親族内や地域内において文化が伝承されていないことが考察された。また,失われた文化的生態系サービスを回復させるには学校教育が重要な役割を担っていると考えられた。