| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-339 (Poster presentation)

多摩川において最後に残ったカワラノギクの個体群の危機

*倉本宣(明大・農),岡田久子,芦澤和也(明大・知財)

2012年の環境省のレッドリストでは、カワラノギクは絶滅危惧IB類からⅡ類に位置付けが変更され、絶滅から遠ざかったという評価となった。しかし、多摩川におけるカワラノギクの個体群は植栽および植栽起源のものは8つあるものの、ほぼ確実に野生と推定できるものは2012年には青梅市の1つだけである。人間のかかわった個体群が多くなり、野生の個体群が衰退していく傾向は、鬼怒川と相模川でも同じである。野生の個体群の存在は、人為的な活動の手本になるほか、市民による保全活動の意欲の源となるので、野生の個体群の存続のための研究は欠かせない。

青梅市の個体群は網状流路の部分の中州に成立し、出水時にも一部の個体が存続してきた。

2012年夏に中州の横断方向50m、縦断方向40mの区域に5×5mのメッシュを設置し、相観植生を木本、大型草本、小型草本、裸地に区分して記録したところ、それぞれ、16、35、24、25(%)となっていた。カワラノギクは開花個体(茎を伸ばしていて秋に開花する個体)が16個体、ロゼット個体が49個体確認された。カワラノギクが確認されたメッシュは7メッシュで、大型草本優占3メッシュ、小型草本優占4メッシュであった。植生遷移の進行によってカワラノギクの生育しにくい大型の植生が多くなっており、このまま推移すると、カワラノギクの絶滅が危惧される。

カワラノギクの開花個体の19%、ロゼット個体の24%は萎れていた。青梅市の8月の降水量が平均値の15%に過ぎなかったことが影響していると考えられる。カワラノギクの開花個体の63%がクロウリハムシの食害を受けていた。

過去には野生の個体群に人為的に延命を図ったこともあるものの、その評価には個人差があった。多摩川で唯一となった野生個体群における人為的延命は合意形成がむずかしいため、見守るだけにとどめたい。


日本生態学会