| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-341 (Poster presentation)
小笠原は過去に一度も大陸と繋がったことのない海洋島であるため、独自の進化を遂げた固有種が数多く生息しているが、近年、人間の入植に伴って移入した外来種によって、本来の生態系が崩壊しつつある。野生化したヤギによって裸地化した場所や、外来樹木のアカギやモクマオウなどを駆除した跡地に在来の樹木を植栽することによって本来の植生を回復することが期待されている。タコノキはタコノキ科の常緑性の高木で、小笠原諸島の固有種である。種子は海流散布であるが、オガサワラオオコウモリが種子を運ぶとも言われている。風衝地や飛砂地、急な斜面でも定着・生長しやすいため、小笠原諸島での植生回復への活用が期待されている。しかし、このような植栽を行う際は対象種において遺伝構造を調べ、遺伝子撹乱が生じないよう配慮する必要がある。そこで本研究では、小笠原諸島に広域分布するタコノキ31集団計893個体を14遺伝子座のEST-SSRを用いて解析することによって集団遺伝構造を明らかにした。31集団全体の遺伝的分化(FST)は0.027と小さいながらも有意な値を示した。集団ペア間の地理的距離と遺伝的分化の程度の間には有意な相関関係が認められた(r2=0.034)。小笠原諸島全体を対象に行ったSTRUCTURE解析の結果は、小笠原諸島全体に広く分布するクラスターと父島で多いクラスターの2つに分けられたが、両者はほとんどの集団で混合していた。近隣接合樹も列島ごとに高いブートストラップ確率でまとまることはなく、列島間ではっきりとした構造はみられなかった。これらの結果は今後の植栽計画を考える上で活用できるものと期待される。