| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-354 (Poster presentation)
沿岸地帯の照葉樹林に生息する陸ガニ類(アカテガニChiromantes haematochair,クロベンケイガニChiromantes dehaali)は夏季夜間に水辺で放仔を行い,ゾエアは海域で成長し,メガロパになって遡上する生活史を持つ.しかしその生態には不明な点が多く,放出された幼生が河口生態系に与える影響を調べられた例は少ない.そこで本研究は,ゾエアの回遊とメガロパの遡上までの生態史とこれらを捕食する魚類との関係を明らかにすることを目的とする.
調査地として石川県と福井県の境界に位置し,陸ガニ類の生息地として知られている鹿島の森とそれに隣接する汽水湖である北潟湖を選定した.北潟湖は最大水深3.5m,水域面積2.13km2の汽水湖であり,鹿島の森の北側で大聖寺川と合流し日本海に注いでいる.2012年8月から10月の夜間,プランクトンネットを用いて幼生の採集を行い,同時に投網による魚類の捕獲を行った.採集サンプルはエタノール保存し,実体顕微鏡下でソーティングを行った.また捕獲した魚類は胃を切除し,その内容物を観察した.
この結果,ゾエアは 7月下旬から9月下旬にかけて継続して出現した.一方メガロパは,9月に採集され始め,10月下旬に最も多くなった.両者とも夕方から出現し,午後9時前後から深夜にかけて数がピークとなった.魚種はボラMugil cephalusが最も多く捕獲され,次いでマハゼAcanthogobius flavimanus,スズキLateolabrax japonicusの幼魚などが捕獲された.8月にはボラの胃から多くのゾエアを観察され, 9月上旬にはスズキの幼魚から多くのメガロパが採取された.以上の結果から陸ガニの幼生は夏季河口域の魚類の重要な餌となることが明らかになった.