| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-363 (Poster presentation)

滋賀県東部のため池における希少淡水貝類オグラヌマガイの継続調査と保全活動 ~地域参画によるモニタリング調査の実践~

金尾滋史(滋賀県立琵琶湖博物館)

オグラヌマガイOguranodonta oguraeは滋賀県、京都府、大阪府に生息している琵琶湖・淀川水系固有種の淡水二枚貝である。現在は大阪府や滋賀県で断片的な生息記録があるのみで、2012年の環境省第4次レッドリストでは絶滅危惧I類に位置付けられている。

そのような中、2008年10月に滋賀県東部で実施されたため池の自然観察会において、相当数のオグラヌマガイが発見された。そのため、当日はため池に生息するオグラヌマガイの調査も兼ねて観察会を実施した。参加者全員で採集したオグラヌマガイは600個体以上に及び、それらの中には当歳個体と考えられる殻長10mm程度の小さな幼貝から、130mm程度の成貝まで様々なサイズの個体が含まれていた。このことから、このため池ではオグラヌマガイの個体群が健全に維持されていることが示唆された。また、採集されたすべての個体は地域の方々と共に殻長、殻高、殻幅の測定を行ない、それぞれにアクリルマーカーで個体識別の番号を記入した後、池へ放流した。これらの一部は2010年、そして2012年に再び実施された観察会で再捕獲されており、それらの殻長の変化や年輪などから、各齢の成長量や生息個体数なども明らかになってきた。2年ごとに行われる観察会は単にオグラヌマガイを観察するだけではなく、地域の方々と共に調査を行なうことで、現在ではオグラヌマガイの生活史を解明する参加型の研究に発展している。

この地域では、ドブガイ類をまとめて「どろがい」と称し、時には食用としても利用していた。地域で古くから知られてきた「どろがい」が専門的な視点によって新たに「地域の宝物」となったことは、この地域における水辺環境への関心を高めるきっかけにもなった。この発表では、地域と専門家が一体となり、継続した調査や活動する意義についても併せて報告したい。


日本生態学会