| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-373 (Poster presentation)

高いシカ密度下にある知床半島における海岸植生レフュージアの分布特性

*石川幸男(弘前大・白神自然環境研),小平真佐夫(知床財団)

北海道東部の知床半島においては1980年代よりエゾシカが急増し、90年代には冬期に積雪の少ない低標高域を中心に採食による影響が拡大した。特に知床半島の植生を特徴づける要素の一つである海岸植生では、シカが集中する越冬地を中心に著しい被害が発生している。知床世界自然遺産の管理にも関連し、激変した海岸植生の構成要素の現状、レフュージアの有無等を確認する調査を2006年から2009年にかけて実施したので、レフュージアの分布などに関する結果を報告する。

知床半島の海岸植生には、波打ち際の海浜群落、それに接近した断崖上の海浜断崖群落、断崖の上の台地に分布する上部草原群落、台地の縁に分布する海蝕台地群落、および崩壊地群落がある。このうち、前2群落ではシカの影響が少ないことが分かっているので、本報では後者3群落に関してまとめる。

調査は羅臼側では相泊より先端部分、斜里側ではカムイワッカ川より先端部分で実施した。これらの地区の海岸部を徒歩で移動しつつ、移動困難な難所はボートによるショートカットも活用し、合計35地点に約100ヶ所の方形区を設けて残存状況を確認するとともに、シカの採食実態も記録した。

火山活動によって形成された崖が流氷によって削られる知床半島においては、急峻な地形に起因してシカの接近できない場所が海岸部の随所にあり、こうした場所で3群落とも小規模レフュージアが確認できた。しかし、シカが増加する直前である1980年代初めに記録されたこれら群落の構成要素であった132種のうちで、40種が確認できなかった。急峻な地形のごく限られた範囲でのみ今回の確認が行われたことを勘案すれば、このことはこれらの種の消失には直結しないものの、シカの餌資源として重要な多年生の高茎草本が多い上部草原群落と崩壊地群落では、種構成が劣化している可能性も考えられた。


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