| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-376 (Poster presentation)

南アルプス聖平におけるニホンジカ対策(2) 聖平における植生変遷

*桑原淳(環境アセスメントセンター),鵜飼一博(南ア・ボランティアネット)

聖平は、南アルプス聖岳の南側、標高約2,300mの亜高山帯に位置しており、1979年頃には「聖平のニッコウキスゲ群落」として記録されるほどの大群落が成立していたことで知られている。しかし、ニホンジカ等の影響によって、1994年頃からニッコウキスゲの開花が見られなくなり、現在では、シカの不嗜好植物であるキオン、タガネノガリヤスやウシノケグサ等のグラミノイドが優占する草原になっている。このような現状を踏まえ、静岡県では、2002年以降、ニホンジカの採食圧の影響調査及びニッコウキスゲ群落の復元を目的に、実験的に植生保護柵を設置するなどの対策を講じている。本調査では、ニッコウキスゲ群落の復元にあたり、複数地点で採取した土壌試料を用いて花粉分析を行い、聖平における植生の変遷を明らかにすることを試みた。

花粉分析の結果、ワスレグサ属型(ニッコウキスゲと推定)、ウナギツカミ節-サナエタデ節、アサザ属、ガマ属に加え、南アルプスでは分布記録の無いミズバショウ属、ミツガシワ属-イワイチョウ属の花粉を検出した。これらの花粉組成から、聖平の尾根部では主に湿性広葉草原、斜面部では微地形の違いによって、湿性から過湿地まで多様な環境が存在し、それらに対応した様々なタイプの湿性草原が成立していた可能性があった。また、ワスレグサ属型花粉の検出状況から、ニッコウキスゲは、聖平の尾根部から斜面部に分布し、特に斜面部は、尾根部に比べるとより長期にわたって群落を維持していた可能性があった。このような湿性草原が、聖平の潜在自然植生と考えられるが、聖平の植生全体が湿性タイプから乾性タイプの花粉組成に変化しているため、湿性な環境を好むニッコウキスゲの生育適地は減少傾向にあると推察される。


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