| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-462 (Poster presentation)

カナダ周極域トウヒ林における永久凍土の夏季融解が土壌リンを放出する

*藤井一至,松浦陽次郎(森林総研),大澤晃(京都大・農)

カナダ周極域は温暖化影響の最も大きい地域の一つであり、永久凍土の融解による有機物分解の加速が懸念されている。永久凍土では植物・微生物のリン制限が報告されており、有機物分解もまたリン制限を受ける。土壌中のリンは有機態が主体であるが、一部は鉄酸化物などに吸着され難溶性リンとして存在する。鉄は湛水土壌(例えば水田土壌)の還元状態で溶解しリンを放出することが知られ、周極域においても夏季の温度上昇に伴う凍土融解は下層の凍土層による排水不良によって還元状態を引き起こし、土壌のリン供給が高まる可能性がある。本研究ではこの仮説を検証した。

カナダ北西準州Inuvik近郊の段丘高位面のシロトウヒ林(Picea glauca;WSFサイト)、段丘低位面のクロトウヒ林(Picea mariana;BSFサイト)、段丘面の微凹地に広がるカバ優占ツンドラ(Betula nana;TNDサイト)において2012年8月土壌および土壌水を採取した。土壌水のpH、酸化還元電位、二価鉄、リン濃度を測定した。

周辺より比高が高いWSFサイトでは砂質で排水が良く、150 cm深でも凍土層に到達せず、地温(150cm深)で5℃であった。BSFサイトでは32 cm、比高が最も低いTNDサイトでは30 cm深であった。BSFサイトではハンモック土壌下層の土壌水で最も低い還元電位(-62 eV)、高い二価鉄濃度(8.9 mg Fe L-1) が観察され、リン濃度についても他サイトよりも高い値を示した(0.06 P mg L-1)。このことから、下層植生に由来する有機物の供給が多いトウヒ林サイトでは還元作用が進行し、リンの溶解が進む可能性が示された。土壌下層からのリン供給の増加は温暖化に伴う微生物活性の上昇及びCO2放出を加速させる可能性もあり、生態系のリン・炭素循環における重要性を評価する必要がある。


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