| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-492 (Poster presentation)

メコン川流域湖沼、ダム貯水池の一次生産速度

*広木幹也, 冨岡典子, 福島路生, 村田智吉(国立環境研), Tuanthong Jutagate (Ubon Ratchathani Univ.), 今井章雄, 小松一弘(国立環境研)

メコン川流域では多くのダム建設が計画されている。これらのダム建設は、魚類の回遊を阻害したり既存の漁場の喪失をもたらしたりするなど、水産資源の逸失が懸念される一方で、新たな水産資源の創造につながるとの期待もある。本研究ではダム建設によって生じた貯水池において「新たな水産業」を支えるのに必要な生物生産が見込まれるか否かについての基礎的知見を得ることを目的として、既設のダム貯水池および自然湖沼の水中の一次生産性について調査した。

方法:タイ国内の4か所のダム貯水池およびカンボジアのトンレサップ湖(TS)の3地点において2012年1~2月および5月の日中、晴天時に調査を行った。表層より光量が概ね5%に減衰する深度までの数層位において一次生産速度を炭素安定同位体法により測定した。

結果:栄養塩濃度はTSではT-Nは0.4-1.2ppm、T-Pは0.03-0.16ppmであったが、ダム貯水池ではそれぞれ0.03-0.8ppmおよび0.06ppm以下であった。一次生産速度はダム貯水池では5-100μgC L-1h-1であり、TSでも2月には表層では100μgC L-1h-1に達したが下層では一次生産速度は著しく減少した。一方、面積当たりの生産性は、ダム貯水池で15-200mgC m-2h-1あったのに対し、2月のTSでは18~93mgC m-2h-1であったが、水位が低下する5月にはTSでは透明度と一次生産速度は著しく低下し、1mgC m-2h-1以下であった。TSでは栄養塩濃度は高いものの、低い透明度による光不足が一次生産の制限になっていると考えられる。一方、ダム貯水池のうち特に生産速度の低い貯水池ではDICの低いことが一次生産を低く抑えていると考えられた。


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