| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S01-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
「次世代シーケンサ」と呼ばれているいくつかの超並列DNAシーケンサは、生物学の様々な分野で革新をもたらしている。生態学においても、RNA-SeqやRADマーカー法によって、様々な表現型形質の遺伝的基盤の解明などに役立っている。今のところ、このような還元主義的研究を除けばその影響は限られているが、今後は移出入量や有効集団サイズの推定などにも応用が進んでいくだろう。
群集生態学においても、超並列DNAシーケンサは革命的な進展をもたらす可能性を秘めている。というのも、微生物群集から得た「メタゲノム」を超並列シーケンサで解読し、DNAバーコーディングと組み合わせれば、かつてない規模のデータを容易に得られるようになるからである。従来は大型生物群集で行われてきた仮説の検証が、「数桁」大きなサンプルサイズ・反復数のデータによって行えるようになることで、議論に決着がついたり、これまで検証できなかった仮説が検証可能になるかもしれないのである。このほか、新奇微生物の探索やプランクトン幼生の局在調査、糞メタゲノムに基づく食性の推定にも大きく貢献するだろう。水生生物であれば、溶存DNA断片から大型動植物の生息調査も可能になるかもしれない。
このように大きな可能性を持っている網羅的メタゲノミックバーコーディングだが、実際に生態学の研究に応用するには様々な技術的問題が残っている。これらは「バイアス」「定量性」「誤同定・同定不能」に集約できる。本講演では、演者が開発している網羅的メタゲノミックバーコーディングシステムClaidentにおける上記問題への対処方法を概説し、その上で現在の超並列DNAシーケンサを用いた網羅的メタゲノミックバーコーディングの可能性と限界について論じる。