| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S02-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

駿河湾の生物相:その変貌と浜岡原子力発電所

加藤 真(京大・地球環境)

遠州灘から駿河湾西部にかけて、白砂青松の遠浅の海岸が続いており、砂浜とその沖に続く細砂底は、特徴的な砂地の生物相をはぐくむ場所として知られていた。遠州灘と駿河湾を隔てる御前崎には、泥岩が露出しており、特徴的な磯の生物群集が存在していた。ところが、御前崎の西に位置する砂丘の上に、浜岡原子力発電所の建設が計画され、1976年に1号機が運転して以降、現在、5基の原子力発電所が建設され、現在に至っている(うち、2基は廃炉が決定し、3基は東北地方太平洋沖地震後の官邸からの要請を受けて、停止中である)。この地域の海岸に生息する生物や打ち上げられる貝殻を約50年間にわたって見てきた経験などをもとに、生物相の変遷とその原因について考察する。

この海域の生物相は、岩礁上のホンダワラ類やアラメ、ワカメなどの海藻類の繁茂と、砂浜潮間帯のチョウセンハマグリやフジノハナガイ、キンセンガニ、砂浜潮下帯のヒナガイ、ベンケイガイ、ダンベイキサゴ、ミクリガイ、ミオツクシ、カズラガイ、ヤツシロガイ、ボウシュウボラ、泥岩中に穿孔するニオガイ、カモメガイ、シオツガイ、イシマテなどの生息によって特徴づけられて来た。しかしこの20年ほどの間にこの海域の生物相は大きく変化した。もっとも顕著な変化は、磯の海藻の消失と、砂浜海岸の貝類相の衰亡である。かつては普通に見られた打ち上げ貝のうち、オオモモノハナ、アリソガイ、ザルガイ、イセシラガイ、シドロ、トウイト、ミオツクシ、シチクガイなどは近年、ほとんど見られなくなった。この海岸周辺ではこの時期に、砂浜海岸のコンクリート護岸の建設、突堤の建設に伴う漂砂系の変化、大井川などの流入河川へのダム建設に伴う砂供給量の減少、浜岡原子力発電所からの温排水の放出が見られた。これらの外因を分析しつつ、生物相の変貌の原因について考察したい。


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